自然のちから学

ハロ発生のメカニズム:大気中の氷晶による光の屈折・反射

Tags: ハロ, 大気光学, 氷晶, 光の屈折, 大気物理, 巻層雲

ハロ(暈)とは

ハロ(暈)は、太陽や月の周りに現れる光の輪や帯状の現象であり、大気光学現象の一種です。これは、地上の観測者から見て、光が上空の雲を構成する微細な氷晶によって散乱されることで発生します。最も一般的で広く知られているのは、太陽や月の中心から視半径22度の位置に現れる円形の「22°ハロ」です。他にも、より大きな46°の輪や、太陽の両側に明るい点として見える幻日など、様々な種類のハロ現象が存在します。これらの現象は、地上約5000メートル以上の高層に発生する巻層雲などに含まれる氷晶によって引き起こされます。

氷晶による光の屈折

ハロ現象の発生メカニズムの根幹は、氷晶内での光の屈折と反射にあります。上空の高層雲は、過冷却水滴や氷晶で構成されていますが、ハロ現象に関わるのは主に六角柱状の形をした氷晶です。この六角柱状の氷晶は、上下の底面と側面の合計8つの面を持ちます。結晶構造上、これらの面は互いに特定の角度で配置されています。例えば、側面の面同士や、側面と底面は特定の角度(典型的には60度や90度)をなしています。

太陽光や月光が氷晶の表面に入射すると、その界面(氷晶の表面)で光の進行方向が変化します。この現象を屈折と呼びます。屈折の度合いは、入射する物質と通過する物質の屈折率の比、および入射角によって決まります。氷の屈折率は、可視光の波長によってわずかに異なりますが、約1.31程度です。光が空気(屈折率約1.00)から氷晶に入射し、再び氷晶から空気に出射する際に、光は合計で2回屈折します。

22°ハロの発生メカニズム

最も一般的な22°ハロは、主に六角柱状氷晶の側面を通る光の屈折によって発生します。六角柱状氷晶の側面は、互いに60度の角度をなす3組の平行な面から構成されます。太陽光や月光が、ある側面から入射し、その隣の側面(入射面と60度をなす面)から出射する経路をたどると、光は2回の屈折を受けます。

物理光学によれば、プリズムを通過する光は、入射角に対して最小の偏角(屈折によって進行方向がどれだけ曲がるか)を持つ角度が存在します。60度の頂角を持つ氷晶の場合、この最小偏角は約22度となります(可視光の平均的な波長に対して)。つまり、入射した光は、元の進行方向から少なくとも約22度曲がって観測者の目に届きます。

大気中には無数の氷晶がランダムな向きで浮遊していますが、観測者から見て太陽(または月)を中心とした視半径22度の円錐面上に存在する氷晶のうち、光を約22度偏向させて観測者へ送り返す特定の向きを持った氷晶からの光が集まって、22°の光の輪として観測されます。22度よりも小さい角度で偏向される光は存在しないため、22°の輪の内側は暗く見えます。

46°ハロおよびその他のハロ現象

46°ハロは、六角柱状氷晶の側面から入射した光が、底面から出射する際に2回の屈折を受けることによって発生します。側面と底面は90度の角度をなしており、この90度の頂角を持つプリズムを通過する光の最小偏角は約46度となるため、視半径46度の位置に輪として観測されます。46°ハロは22°ハロよりも観測される頻度が低い傾向があります。これは、46°の偏角を生じさせる光の経路をとる氷晶の向きの範囲が狭いことや、太陽高度が低い場合にしか完全な円として観測されにくいことなどが理由として挙げられます。

幻日(げんじつ、Parhelion)やタンジェントアーク、パリーアークなどの比較的珍しいハロ現象は、氷晶がランダムな向きではなく、特定の向きに揃っている(配向している)場合に発生します。例えば、板状の氷晶が水平に落下しながら、主軸(六角形の面と垂直な軸)がほぼ垂直になるように配向している場合や、柱状の氷晶が水平に落下しながら、主軸がほぼ水平になるように配向している場合などです。このような配向した氷晶による光の屈折や反射が、多様な形状や位置を持つハロ現象を生み出します。

観測条件

ハロ現象は、上空に十分な量の氷晶が存在する際に観測されます。これは主に、対流圏上部や成層圏下部に発生する巻層雲(Cirrostratus)や巻積雲(Cirrocumulus)といった氷晶で構成される雲が存在する状況です。特に巻層雲は、薄く広がるベール状の雲であり、太陽光や月光を透過させるため、ハロ現象が観測されやすい条件となります。また、地表付近にダイヤモンドダストと呼ばれる微細な氷晶が存在する場合にも、地表近くで同様の光学的現象(地上ハロ)が観測されることがあります。

まとめ

ハロ現象は、大気中の六角柱状などの形状を持つ氷晶を太陽光や月光が通過する際に発生する、光の屈折や反射に基づく大気光学現象です。特に22°ハロは、氷晶の60度面による光の最小偏角が約22度であることによって形成される最も一般的な現象です。様々な形状や位置を持つハロ現象は、氷晶の形状、光の経路、そして氷晶の空間的な配向性によって複雑に変化します。これらの現象の理解は、大気中の水や氷の物理状態、さらには気候や気象に関する知見にもつながる科学的に興味深いテーマと言えます。