地震時液状化現象の物理メカニズム:飽和砂質土の応答と有効応力の低下
液状化現象の概要
液状化現象は、地震動によって飽和した砂質土層が一時的に流動性を持ち、強度が著しく低下する現象です。この現象は、構造物の沈下や傾斜、地中構造物(マンホールなど)の浮上、噴砂・噴水といった被害を引き起こすことがあります。特に、1964年の新潟地震や1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2011年の東北地方太平洋沖地震、2016年の熊本地震などで広範な被害が報告されており、地震工学および地盤工学において重要な研究対象となっています。本稿では、液状化現象が発生する物理的なメカニズムに焦点を当てて解説します。
液状化発生の物理メカニズム
液状化現象は、主に地震動が飽和した緩い砂質土に作用することによって引き起こされます。そのメカニズムは、土の力学特性と「有効応力原理」に基づいて理解できます。
1. 有効応力原理
土中の応力は、土粒子間にかかる「有効応力」と、土粒子の隙間を満たす水(間隙水)の圧力である「間隙水圧」の合計である「全応力」として表されます。土のせん断強度(破壊に対する抵抗力)は、基本的に土粒子間の摩擦によって発揮され、この摩擦は有効応力の大きさに依存します。有効応力が高いほど、土粒子間の接触力が強く、せん断強度も大きくなります。
2. 地震動によるせん断応力の繰り返し作用
地震が発生すると、地盤は強い揺れ、すなわち繰り返し作用するせん断応力を受けます。飽和した砂質土層では、このせん断応力によって土粒子が相対的に移動しようとします。緩い砂質土は、せん断を受ける際に体積を圧縮しようとする傾向(ダイレイタンシーの反対の現象、ここでは「体積圧縮傾向」と記述します)があります。
3. 間隙水圧の上昇
飽和した状態では、土粒子の隙間(間隙)は水で満たされています。土粒子が体積を圧縮しようとしても、間隙水が存在するため、その体積変化は容易ではありません。特に、地震動のような急激な変形に対しては、間隙水が瞬時に排水されることが困難です。このため、体積圧縮しようとする土粒子の動きが間隙水を締め付け、間隙水圧が上昇します。これを「過剰間隙水圧」と呼びます。
4. 有効応力の低下
全応力がほぼ一定である状況下で間隙水圧が上昇すると、有効応力は「全応力 - 間隙水圧」の関係式に従って低下します。地震動の繰り返し作用によって過剰間隙水圧が地盤の初期有効応力に近い値まで上昇すると、有効応力はほぼゼロにまで低下します。
5. せん断強度の喪失と流動化
有効応力がゼロに近づくと、土粒子間の摩擦抵抗がほとんど失われます。これにより、地盤は固体としてのせん断強度を実質的に喪失し、液体に近い状態となって流動化します。この状態を液状化と呼びます。
液状化発生の条件
液状化現象は、以下の条件が揃った場合に発生しやすいことが知られています。
- 飽和した砂質土層: 地下水位が高く、土粒子の隙間が水で満たされている必要があります。また、比較的均質な細かい砂またはシルト質の砂の層が液状化しやすい傾向があります。粘性土は通常、液状化しません。
- 比較的緩い堆積状態: 土粒子が密に詰まっていない、相対的に密度の低い(緩い)状態の砂地盤ほど、せん断を受けた際の体積圧縮傾向が大きいため液状化しやすくなります。
- 強い地震動: 地盤に有効応力をゼロ近くまで低下させるのに十分な強さと継続時間を持つ地震動が必要です。一般に、震度5強程度以上の揺れが目安とされます。
- 深度: 地表から概ね20m程度の比較的浅い層で発生しやすいとされています。深部では上載圧によって有効応力が高く、過剰間隙水圧が初期有効応力に達しにくいため、液状化は発生しにくい傾向があります。
これらの条件は、過去の地震被害の分析や、室内における繰返しせん断試験などの実験によって確認されています。特に、不攪乱試料を用いた動的載荷試験は、地震時の土の応答や間隙水圧上昇のメカニズムを再現し、液状化強度を評価する上で重要な手法です。
まとめ
地震時液状化現象は、飽和した緩い砂質土が地震動による繰り返しせん断応力を受けた結果、間隙水圧が急激に上昇し、有効応力が低下することで土がせん断強度を失い流動化する物理メカニズムによって発生します。この現象は、地盤の構成、水の飽和度、地震動の特性といった複数の要因が複合的に作用することによって引き起こされます。液状化のメカニズムの理解は、地震時の地盤挙動予測や、効果的な液状化対策工法の開発にとって不可欠な要素となっています。